研究・技術情報
Research &
Technology
公開日:2018年4月
HydroFresh™
はじめに
熟成肉がブームになっている。 熟成肉について明確な定義はないが、食肉に対して熟成に必要かつ適切な処置を行い、熟成に適した管理された環境下で一定期間保管された食肉がしばしば熟成肉と言われる。 食肉が熟成することで、一般的には食肉中に含まれる旨味成分「グルタミン酸」の量が増加し、さらに肉質が柔らかくなると言われている。
食肉を熟成させる方法には、主にドライエージングとウェットエージングの2 つの方法がある。 ドライエージングは、温度、湿度を管理した乾燥庫内に食肉を置き、通風しながら食肉を熟成させる方法で、特有の風味が得られる一方、熟成環境の管理を怠ると食肉を腐敗させてしまうリスクがあり、さらに歩留まりも悪いためコスト増となってしまう。 ウェットエージングは、食肉を真空包装して熟成させる方法で、ドライエージングと比較して熟成環境の管理の手間が少なく、歩留まりも良いため、より一般的に用いられている方法である。
本開発品は、従来のフィルムに分子状水素を発生する機能を付与した、ウェットエージング用の真空包装フィルムである。 発生した分子状水素が食肉中に拡散することにより、旨味成分「グルタミン酸」の量が増加し、さらに肉質が柔らかくなるといった効果が確認されつつある。
開発コンセプト
2007 年、大澤郁朗、太田成男らによって分子状水素の医学的効能が国際的に著名な医学雑誌NatureMedicine に発表された [1]。 水素が生体内で有効な抗酸化剤として機能し、抗酸化治療及び予防に適用できることが明らかになりつつある。
そこで、分子状水素を食肉に作用させることで、食肉の酸化を防ぎ、食肉の鮮度を保持することができないかと考えた。 食肉の流通に広く利用されている真空包装に着目し、食肉の酸化防止効果を目的とした、分子状水素が発生する新しいタイプの真空包装フィルムを開発コンセプトとした。
分子状水素発生メカニズム及び発生した分子状水素の食肉への拡散
水素を発生させ、かつフィルムに添加可能な素材として金属粒子に着目した。 金属粒子が水(食肉の場合はドリップ)と反応することにより、金属酸化物や金属水酸化物が生成し、同時に分子状水素も発生する。
金属と水との化学反応式(一例)
※M:金属2M + 6H₂O → 2M(OH)₃ + 3H₂
金属粒子は当社独自のコア技術を用いてポリエチレン樹脂中に練りこまれ、フィルム一面に均一に分散されている。 図1 は、本開発品であるハイドロフレッシュ™の断面像である。 図中グレーの部分がポリエチレン樹脂部で、その中或いは表面に白く写っている部分が金属粒子である。 フィルムを透過した水分はフィルム内に分散した金属粒子と反応し、発生した分子状水素はフィルムを透過して外に放出される。 放出された分子状水素はサイズが小さく、極性もないため、水溶性かつ脂溶性である。 そのため分子状水素は細胞膜を通過し、食肉全体にすばやく拡散される。

ハイドロフレッシュレッシュ™の水素発生能検証
図2は、溶存水素濃度の経時変化水素濃度の経時変化を示す。
容器に水とハイドロフレッシュ™を入れ、密封して室温で保管し、定期的に水中の溶存水素濃度を隔膜式電極法により測定した。

時間の経過とともに水中の溶存水素濃度が増加することが確認できた。
ハイドロフレッシュ™で保管した牛肉の評価
○牛肉の変色を防ぐ
図3は、市販の牛もも肉をハイドロフレッシュ™で包み、一週間冷蔵保管した後の牛肉の写真である。

ブランクの牛肉(左)が褐色に変色した一方、ハイドロフレッシュ™で包んだ牛肉(右)は赤い色調が保持された。ハイドロフレッシュ™で包んだ牛肉は、筋肉色素ミオグロビンが酸化されてメトミオグロビン(褐色)が生成する酸化反応が抑制されたからではないかと推測している。牛肉の変色を抑制することで消費者の購買意欲促進につなげたい。
○牛肉を美味しくする
図4は、ハイドロフレッシュ™で包んだ後の牛肉に含まれる旨味成分「グルタミン酸」の測定結果を示す。縦軸に牛肉の旨味成分であるグルタミン酸量を横軸に経過日数を示す。

驚くべきことにハイドロフレッシュ™で包んだ牛肉の旨味成分グルタミン酸量はブランクのものに比べ約 25%増加していた。分子状水素が牛肉に与える新たな効果が示唆された。これらの結果より、牛肉の変色を抑制しつつ、旨味成分を増大させる新しいタイプの真空包装フィルムを提案することができるようになった。
なお、グルタミン酸量が増加した理由は今のところ不明であることから、そのメカニズム解明に向け、公的機関と共同で取り組んでいる。
今後の展望
当社のコア技術を見直し、さらに分子状水素医学という先鋭の研究からヒントを取り入れることで、水素が発生する包装フィルムという、これまでにない発想のフィルムを提案することができた。また、当初の狙いとした効果だけでなく、誰もが予想し得なかった旨味成分増大といった効果も確認された。分子状水素が食肉にどのように作用して効果を発揮するのか、まだ明らかになっていないことが多く、早急のメカニズム解明が求められる。
これまで牛肉の他に、豚肉のグルタミン酸量が増加することも実験的に確認できている。今後は、魚肉も含めた牛肉、豚肉以外の食肉にも展開できないか検証を行い、分子状水素の潜在的ポテンシャルを見出していきたい。
参考文献
[1] Ohsawa Ikuroh, Msahiro Ishikawa, Kumiko Takahashi, Megumi Watanabe, Kiyomi Nishimaki,Kumi Yamagata, Kenichiro Katsura, Yasuo Katayama,Sadamitsu Asoh, Shigeo Ohta., Nature Medicine, 13,688-694, 2007.
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