東洋アルミの
イノベーション
Innovation
開けて、閉じて、また開ける。
新しい当たり前をつくる挑戦!
~再封できる包装材
「トーヤルリシール」開発の舞台裏〜
一度開けた食品パッケージは、もう閉じられない――。
そんな“当たり前”を変えるために、東洋アルミニウムは新しい包装材の開発に挑んだ。手で押さえるだけで簡単に再封できる「トーヤルリシール」。しかしその裏側には、「密封」と「再開封」という相反する性能を両立させる難題があった。100回以上の試作、材料探し、そして数々の失敗。開封体験を変える技術は、どのようにして生まれたのか。その開発ストーリーを追う。
01/05
開けたら終わり。その常識を変えたい
食品売り場に並ぶパッケージを、改めて見渡してみる。ヨーグルト、スナック菓子、調味料と、どれも日常に欠かせないものばかりだ。しかし、その多くには共通点がある。一度蓋を開ければ、もう元には戻せないということだ。
開封後はラップをかけたり、輪ゴムで留めたり、別容器に移したりする。消費者は、その不便さに手をかけることで対応してきた。言い換えれば、“開けたら終わり”という前提を受け入れてきたともいえる。「誰もが不便だと思っているのに、それが当たり前になっていました」。そう話すのは、東洋アルミニウムの群馬製造所に務めるSさんだ。Sさんと東洋アルミニウムが挑んだのは、まさにその“当たり前”の書き換えだった。
手で押さえるだけで再封できる包装材「トーヤルリシール」。開けても、また閉じられる。シンプルだが、これまで実現が難しかった機能だ。この技術が広がれば、食品の保存性は高まり、食べ残しによる廃棄も減る。さらに外フタなどの付属部材が不要になれば、プラスチック削減にもつながる。企業はもちろん、国単位でも求められる革新といえた。ただ、その裏側には、想像以上に複雑で地道な開発の積み重ねがあった。
02/05
密封か、開けやすさか。
相反する性能への挑戦
開発初期、チームが直面したのはシンプルで根深い問題だった。「密封」と「再開封」という、相反する性能の両立。密封性を高めようとすれば、どうしても粘着力を強くする必要がある。しかし、それでは開封時に強い力が必要となり、場合によっては容器を傷めてしまう。
一方で、開けやすさを優先して粘着力を弱めれば、今度は閉じたときにしっかり密封できない。まるで綱引き。「どちらかを引き上げると、もう一方が落ちる」。Sさんは当時の試行錯誤を振り返る。
さらに、食品包装ならではの条件も重くのしかかる。製造工程では熱シールが行われるため、高温に耐える必要がある。流通段階では冷蔵・冷凍環境にもさらされるし、気圧というプレッシャーもある。もちろん食品衛生基準もクリアしなければならない。加えて、容器素材との相性も無視できない要素だ。紙、プラスチック、アルミなど、多様な素材に対して安定した性能を発揮する必要がある。単なる“便利なフィルム”ではなく、“包装材として成立する製品”であること。その条件が、開発の難易度を一気に引き上げていた。
03/05
試作100回以上。
材料探しから始まった開発
開発する上でもっとも重要なのは「材料」だ。世の中には粘着性を持つ材料は数多く存在する。だが、食品用途として安全で、かつ加工性や耐熱性を兼ね備え、さらに知的財産の問題もクリアする、それらすべてを満たすものは極めて限られていた。「候補はたくさんあるように見えて、実際に使えるものはあまりありませんでした」と、Sさんは静かに振り返る。
さらに難しいのが、“ちょうどいい粘着力”の実現だった。強すぎれば開封時に容器の表面が剥がれてしまう、一方弱すぎれば再封しても密封性が保てない。実験室では、さまざまな素材を組み合わせた試作品が次々と作られていった。フィルムメーカーや材料メーカーとも連携しながら、条件を変え、構造を変え、何度も試す。結果として、その回数は100回を軽く超えたという。「うまくいきそうだと思った次の瞬間に、別の問題が出てくるんです」。Sさんは当時を振り返り苦笑した。それでも試作を重ねるごとに、わずかずつだが理想に近づいていく。開けたときの感触、閉じたときの密着感。その微妙なバランスを、チームは感覚としても蓄積していった。
04/05
これだ!チームで掴んだブレイクスルー
転機は、ある材料との出会いだった。新しい粘着材料。それだけで全てが解決したわけではない。しかし、そこに東洋アルミニウムが長年培ってきた包装設計のノウハウを掛け合わせたことで、状況が一変する。構造の工夫によって、粘着力のかかり方をコントロールでき、開封時にはスムーズに剥がれ、再封時にはしっかり密着する。そんな理想的な挙動が見え始めた。「最初に“ちゃんと閉じた”と感じた瞬間は、忘れられません」。Sさんの声が少しだけ弾んだ。その試作品を前に、メンバーは無言で何度も開け閉めを繰り返した。開ける。閉じる。また開ける。何度試しても、機能は維持される。「誰かが“これだ”と言ったんですが、たぶん全員同じことを思っていました」。
このプロジェクトは、Sさんと新入社員のわずか2人からスタートした小さな挑戦だった。だが、その瞬間、チーム全体が一つの到達点にたどり着いた。“再封できる包装材”というアイデアが、ようやく現実の形を持ったのだ。
05/05
新しい“当たり前”をつくるために
とはいえ、製品化はゴールではない。むしろスタートに近い。コストの最適化、さらなる耐久性の向上、量産時の安定性、そして市場への浸透。クリアすべき課題は今も数多く残されている。「技術としては形になりましたが、これを当たり前にするのが次のステップです」
Sさんはそう語る。トーヤルリシールがめざすのは、特別な機能ではなく“標準”になることだ。ヨーグルトだけでなく、スナック菓子や調味料など、あらゆる食品パッケージに広がっていく可能性がある。
この技術の本質は“派手さ”ではなく“自然さ”にあるということだ。気づかないうちに生活に溶け込み、いつの間にか欠かせない存在になる、そんな製品だ。「開けたら閉じられる。それが普通になる未来をつくりたいですね」Sさんの言葉は静かだが、確かな手応えを含んでいた。
挑戦はまだ続いている。そして、その先には“新しい当たり前”が待っている。
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