東洋アルミの
イノベーション

Innovation

アルミで、限界を超える。
常識外れの発想が切り拓いた
超微細配線

~次世代の世界の基盤となる「ALU-SAP」~

半導体や電子機器の進化を支える配線技術は、いま極限の微細化競争の中にある。しかし従来のSAP工法では、微細化と歩留まりの両立に限界が見え始めていた。その常識に挑んでいるのが、東洋アルミニウムの「ALU-SAP」だ。ALU-SAPは、パラジウム付きアルミ箔を一時的なキャリア(金属型)として用い、樹脂上に極めて微細な銅配線のパターン形成に最適な表面状態を提供する次世代の工法。既存設備を活用できる工法設計であり、5G・6G、車載、半導体分野などへの応用が期待されている。アルミニウム箔を活用するという、一見すると“異端”ともいえるアプローチ。その挑戦を続けた先に見えてきたのは、次世代配線の新しい可能性だった。

01/05

業界の限界を超えろ。
微細化競争のその先へ​

半導体パッケージ基板や高周波基板の分野では、配線の微細化・高密度化が急速に進んでいる。生成AIの進化を背景に、電子信号を高速かつ安定して伝送する性能が求められ、同時に基板との高い密着性も不可欠になっていた。
しかし、最先端用途の量産で、従来のSAPではL/S:9/12μm、mSAPでは15/15μm程度が壁とされてきた。微細化を進めれば歩留まりが低下し、信頼性にも影響が出る。業界全体が、そのバランスに苦慮していたのである。
ALU-SAPプロジェクトをけん引するYさんも、当初から半導体やSAP工法に詳しかったわけではない。ただ、「自分の手で新しい事業を生み出したい」という思いを強く抱いていたという。転機は2019年8月。アメリカ・シリコンバレーのベンチャー企業から、「超微細配線向け基板工法に適したアルミ箔を開発してほしい」という問い合わせが届く。ここからALU-SAPの開発が始まった。

業界の限界を超えろ。微細化競争のその先へ

02/05

なぜアルミ?“ありえない選択”への挑戦

ALU-SAPの最大の特徴は、「アルミニウム箔」を使う点にある。しかし基板業界において、アルミは一般的な材料ではない。だからこそ、開発当初は懐疑的な声も多かった。特に懸念されたのが、アルミエッチング後の残渣問題だった。わずかな異物や汚染でも不良につながるため、工程内での安定管理は必須条件だった。「“なぜアルミなのか”という問いには、ずっと向き合っていました」。
それでも挑戦を続けた理由は、アルミ箔が“表面形状を精密に設計できる材料”だったからだ。
微細配線には、本来は相反する二つの性質を同時に満たすことが求められる。一つは信号を速く正確に伝える「低伝送損失」、もう一つは配線が基板からはがれない「密着性」である。
伝送損失は、表面の平滑さに大きく左右される。道路に例えるなら、でこぼこ道では車が速度を落とすように、高周波の電気信号も表面が粗いほど損失が増える。逆に、極限まで平滑な表面は損失を抑え、高速・大容量の伝送を可能にする。
ところが、平滑なだけでは配線が基板に密着しにくい。従来はあえて表面を粗くして密着性を確保してきたが、それでは伝送損失が増え、微細配線の形成も難しくなる——ここに長年のジレンマがあった。
ALU-SAPは、このトレードオフをアルミ箔の表面設計によって解こうとしている。信号が通る面はなめらかに保ちつつ、密着に必要な微細な構造だけを作り込む。粗さで密着を稼ぐのではなく、ごく微細な構造で確実に引っ掛ける——つるりとした壁に、目に見えない無数の小さなフックを並べるようなイメージだ。
その構造のスケールは、髪の毛の太さの数十分の1。肉眼ではまったく見えないこの微細な作り込みこそが、次世代基板の性能を左右している。

なぜアルミ?“ありえない選択”への挑戦

03/05

見えない壁との戦い。微細化か、信頼性か

開発チームは約3名の少人数体制でスタートした。挑戦に共感したメンバーが集まり、試行錯誤を重ねながら現実的な解を探り続けていた。
開発の過程ではいくつもの壁が立ちはだかった。大きな課題となったのが、アルミエッチング後の残渣問題である。これを完全に除去し、工程内で安定管理することは、実用化に向けた必須条件だった。さらに難しかったのが、微細化と密着性のトレードオフだ。密着性を高めるには凹凸構造が有効だが、粗さが過度になると微細配線の形成を妨げてしまう。「密着はさせたい。でも粗くしすぎると微細化できない。そのバランスに悩んでいました」。 Yさんの言葉からは、試行錯誤の連続が伝わってくる。
この相反する要素を両立するために設計されたのが、「微細アンカー構造」だった。東洋アルミニウムが長年培ってきた表面形成技術を活用し、微細でありながら確実に密着する構造を実現していく。また、既存設備との整合性も重要なテーマだった。SAP工法は設備投資負担が大きく、新工法導入には高い障壁がある。ALU-SAPは既存設備への適用可能性を持つことで、そのハードルを下げようとしている。

見えない壁との戦い。微細化か、信頼性か

04/05

世界市場を視野に入れた、
新たな産業基盤への挑戦

開発はModel1からModel4へと段階的に発展していった。当初は密着性重視の設計だったが、次第に微細化との両立へと軸足が移っていく。しかしその過程では、工程全体への影響、顧客ごとの条件差、さらには製造方法の見直しなど、多くの課題に直面した。「うまくいったと思っても、別工程で問題が出る。その繰り返しでした」。
転機となったのは、米国ベンチャー企業から事業化に必要な特許を買い取り、自社主導のプロジェクトとして独立させたことと、国内のパートナー企業の拡大だった。展示会などを通じて加工・実装の協力企業が増え、「自社技術×業界知見」の掛け合わせが実現する。さらに米国ベンチャー企業からの特許買取りを経て、開発の自由度も高まった。明確なマーケティング戦略のもと、中小企業から展開を進めたことも奏功し、技術の適用範囲は着実に広がっていった。そして現在、試作でL/S:2/2μmの形成に成功し、L/S:1/1μmまで進もうとしている。

世界市場を視野に入れた、新たな産業基盤への挑戦

05/05

アルミが変える未来。
素材メーカーのその先へ

「ここまで来たか、という感覚はありますね」。Yさんの言葉には、積み重ねてきた時間の重みがにじんでいた。さらにYさんは、2030年を見据えた将来像についてこう語る。「まずはALU-SAPをグローバルで標準として使用されるデファクトスタンダードの半導体パッケージ技術にしていきたいんです」。
ALU-SAPはまだ業界で導入され始めたばかりである。だが、この技術が持つ可能性は計り知れない。半導体パッケージや通信技術の進化を支える基盤技術として、新たな価値を生み出そうとしている。
アルミニウムという素材に、新たな役割を与える。その挑戦は単なる製品開発にとどまらない。「素材メーカーの枠を超え、次世代基板の『プロセス・ソリューション』を提供する企業へ」というYさんの言葉が示すように、ものづくりの在り方そのものを問い直す試みでもある。「もはやALU-SAPの研究開発は、東洋アルミの一事業には収まりません。世界を変える、世界標準の技術を、日本がけん引していく。その可能性を本気で感じています」。Yさんはそう締めくくった。
銅が当たり前だった業界・領域に、あえてアルミを持ち込む。その選択が、新しい可能性を切り拓いた。アルミで、限界を超える。 その挑戦は、これからのものづくりの未来へとつながっていく。

アルミが変える未来。素材メーカーのその先へ

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